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ハゲタカから学ぶ世論形成の方法

私の証券会社時代からのバイブルである、真山仁先生のハゲタカシリーズ最新作を読んでいる。

未だ前半折り返した状態なのだが、企業買収を通じての力と力のぶつかり合い、大上段での心理戦は毎回見ていて胸がすく思いである。

 

企業買収の鍵となるのは、世論を操作する作業である。

つまり、

・株価が安い=世の中から見放されている

・株価が高い=世の中に必要とされている

という原則のもと、世の中の価値観を操作することが本作の壮快さであり醍醐味だ。

 

ハゲタカと言われる買収ファンドは、一般的に今でも世論を敵に回している。

それは外資企業的な成果主義の経営や、伝統的な日本企業が、「海外の資本に経営権を握られている」という生理的な悪意に起因していたりする。

※シャープが鴻海に買収される時のニュースを思い出してほしい。

 

その中で本作のハゲタカファンドは、メディアや証券会社へ適切に情報をリークすることで

企業を買収する大義名分を作り出す。

気づけば、屍肉をあさり忌避される存在のハゲタカが、日本救済の立役者として世から喝采を浴びるのである。

 

★★

話は変わるが第三者からの声というのは、相手により直接的に響く。

 

例えば部下への査定の面談の場合でも「君はよくやってるね」というよりも、

「○○さんも●●さんも君のことを褒めていた。本当に君を悪くいう人にはあったことがないね」と言われる方が数倍嬉しい人も多いだろう。

 

これはシンプルな手法で、複数の人が褒めているという事実を切り出すことで、受け手は「全ての人がそう思っている」という自分勝手な一般化を行うのだ。

上記の例だと、100名いる部下のうち、たまたまヒアリングした2名だけが褒めていたということもある。

 

問題はなにかというと、人間は大抵「自分が見たい世界」「自分に都合の良い世界」だけを切り取って見ているということだ。

 

現実を捉えることは極めてストレスがかかるし、不都合な真実は世の中に転がっている。

そういう人の心理を積み重ねたものが「世論」である。

大多数の人間に都合の良い価値観は、世の中のスタンダードとなり、人々の価値観の大半を形成している。

 

政治家でも浮世離れした公約を描く人間もたまにいるが、論理的に破綻していると誰でも分かるマニュフェストを支援する理由は、決して自尊心を傷つけない、耳あたりの良い言葉を耳元で囁いてくれるからだ。

 

★★

 

大衆向けに何かを広めようとする時は、人間のこの習性は特に注意すべきだ。

CSRだったり、ヒロイズムだったり、環境価値だったり、資本主義を潰すだったり、なんでもいい。

要は世の中の不条理に目を向けるのではなく、理想論や甘い側面をたっぷり入れ込むのだ。

 

もしくは、徹底的に仮想敵を叩くことに徹するのもよい。デモで原発反対している人は、震災前はリーマンショックに端をなす金融機関に反対してたり、その前はまた別の何かに反対してたりする。

ようは人々はリアルを見たい訳ではなく、何かを反対して正義を演じていたいのだ。

 

最近は、流石に大衆をバカにしすぎているようなコンテンツも中には見受けられるが、それでもその内容が一定数の指示を得ていることを見ると、リアリティーの割合は大小あれ、大半を都合の良いメッセージで埋め尽くして上げることがプロモーションのコツなのかと思う。